釧路地方裁判所 平成4年(行ウ)3号 判決 1993年8月31日
原告
有限会社美成酪農経営共同農場
右代表者代表取締役
都築利夫
原告
都築利夫
被告
大樹町農業委員会
右代表者会長
西山藤美男
右指定代理人
清信充
同
宮永正信
同
堀川昇
被告
北海道知事 横路孝弘
右指定代理人
蔵谷幸栄
同
川嶋勝利
同
海野尾広幸
同
佐々木陽一
被告両名指定代理人
栂村明剛
同
箕浦正博
同
関谷政俊
同
田端恒久
同
中村保
同
佐々木貞
理由
一1 本件三条許可申請書進達について
農地法三条一項、農地法施行令一条の二第二号により都道府県知事が農地法三条許可の許可権者となる場合、その許可申請書は農業委員会を経由して都道府県知事に提出されなければならず、右提出があったときは、当該農業委員会は、これに意見を附して都道府県知事に進達しなければならないと定められている(農地法施行規則二条一項、三項)。そうすると、本件三条許可申請書進達は、行政機関相互間の行為であって、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないといわなければならない。
2 本件買受適格証明願書進達について
買受適格証明書の交付の根拠である「民事執行法による農地等の売却の処理方法について(昭和五五年九月二九日五五構改B第一四二〇号農林水産省構造改善局長通達(以下「本件構造改善局長通達」という。)によれば、買受適格証明の判断権者、申請手続及び許否の判断基準等は農地法三条の許可の手続に準じることとされているから、本件買受適格証明願書進達は、本件三条許可申請書進達と同様に、抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないといわなければならない。
二1 本件三条許可について
(一) 原告らは、本件において、農地法三条の許可の対象となった農地等の所有者の地位にあったことを理由として、本件三条許可の取消しを求めるものである。
(二) 農地法三条の許可における原告適格等の判断に当たっては、認可の性質を有する農地法三条の許可が実質的には売主の売却を許可する面と買主の買受けを許可する面を持つことに着目し、それぞれの面について検討することが有用であると考えられる。
(三) まず、前者の売主の売却を許可する面においては、売主は、農地法三条の許可を申請し、その申請に添う許可が行われたのであるから、農地法三条の許可によっては何らの不利益を被っておらず、その取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないといわなければならない。
本件三条許可の申請手続は、本件競売手続において最高価買受申出人となった大樹町農協の単独申請により行われたものであるが(農地法施行規則二条二項一号)、競売も私法上の売買としての性質を有していると考えられること(民法五六八条参照)及び競売手続における債務者が農地法三条の許可申請手続に協力することは事実上期待できないため右単独申請手続が規定されたと考えられることからすると、本件三条許可が単独申請により行われたことは、右の法律上の利益の判断に関する限り、通常の売買を理由とする共同申請者の場合と異なる結論に至る理由とはならないと考えるべきである。
したがって、売主の売却を許可するという面からは、原告らは、本件三条許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないといわなければならない。
(四) 次に、後者の買主の買受けを許可する面においては、原告らは、処分の名宛人ではない第三者の地位にあると考えられる。
そこで、原告らの原告適格の有無を判断するため、その目的を定める農地法一条や許可要件を定める同法三条二項等を検討しても、同法が、競売手続における債務者を含む農地等の売主の個人的利益を保護する目的で農地法三条の許可制度を設けたことをうかがわせるものはないといわなければならない(なお、本件三条許可が取り消されれば、原告らは本件各土地の所有権を失わないこととなる。しかし、そのことは、農地法三条が農業生産力の増進等の一般的公益を保護するため農地法三条の許可制度を採用したことの反射的利益にすぎないものであり、原告らに原告適格を認める根拠となり得るものではない。)。
(五) 以上によれば、原告らは、本件三条許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないといわなければならない。
2 本件買受適格証明について
競売手続における買受けの申出の際に必要とされる買受適格証明は、いわば将来の農地法三条許可を予定し、その事前の判断として行われるものであるから(本件構造改善局長通達参照)、原告らは、本件三条許可の取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないのと同様に、本件買受適格証明の取消しを求めるについても法律上の利益を有しないといわなければならない。
三 よって、原告らの本件訴えはいずれも不適法であるから、これらを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 市川正巳 裁判官 牧真千子 岡野典章)